森に抱かれ眠る夜

生まれ育った東京を離れ、北の大地で暮らしてみることに。子育てを終え "Restart" する 私の新しい生き方。

とうきび

ある市場のあたりを車で通りかかった時

信号が赤になり

2軒並んで商売している青果店の横で

停車した。

 

そろそろ店じまいかと思われる

お客が引けた時間帯の市場。

 

同じぐらいの店幅で、同じような商品を前に

同じような、小さな椅子に

2人とも腰掛けていた。

 

異なるのは、おばちゃんの雰囲気。

 

左の店のおばちゃんは、

沢山の皮付きのとうきびと茹できびが並ぶ店先で

商品の茹できびをムシャムシャと食べていた。

 

眼光だけは鋭く

食べながら、道行く人を

こいつは、買う気が無いなと瞬時に見定めて

ならば食べてても問題なし!!

といった様子で、誰に臆することなく

貪るように、とうきびを食べ続けていた。

 

穏やかな表情で

お客さんを待っている

右の店のおばちゃんとは

実に対照的な光景だった。

 

 

あのとうきびを囓る

おばちゃんの姿が忘れられず、後日

その市場に、買い物に出かけた。

 

 

とうきびを買うために。

 

 

2軒並んだ青果店の前にきた。

穏やかな雰囲気のおばちゃんからも

あのおばちゃんからも、それぞれに

「何か欲しいのあれば...」

と声をかけられた。

 

間もなく季節の終わりを迎える

とうきびや、トマト、きゅうりといった夏野菜たちが

まだ幅をきかせている両店。

ふたつの店の商品を比べて見るふりをしながらも

わたしの心は決まっていた。

 

とうきびを買いにきたのだ。

あのおばちゃんから。

 

ところが、わたしがどちらの店も眺めていたからか

あのおばちゃんは、わたしを買わない客と

見定めたようで、こちらを見ることもなく

機嫌の悪そうな顔つきで

どうきびの皮をむき始めた。

 

声をかけるタイミングを間違ったな...

と何故か、こちらが罰が悪くなってしまうぐらい

の威圧感。

 

実物のおばちゃんの空気感は

運転席のガラス越しから見た以上だった。

 

こういう時は、ウロウロしちゃいけないと

自分に気合を入れ直し

おばちゃんの気迫に対峙する覚悟を持って

 

 

「とうきび下さい」

 

 

と言ってみた。

 

 

おばちゃんは、わたしを一瞥し

皮をむく手を止めることなく

 

 

「おかえり」

 

 

と言った。

 

 

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