森に抱かれ眠る夜

生まれ育った東京を離れ、北の大地で暮らしてみることに。子育てを終え "Restart" する 私の新しい生き方。

続・とうきび

「おかえり」の一言で

おばちゃんの陣地に

入れてもらえた気がしたのも束の間

 

「とうきび、送んのかい?」

 

と低い声で、ボソッと聞かれた。

 

買物バッグをもち

観光客ではない自分を

いくらアピールしてみたところで

全部、お見通しなのだろう。

 

「送るのと、うちで食べるのと半々」

 

とわたしも、頑張って函館に住んでる

アピールをしてみた。

 

 

「へぇ、うちでも食べんのかい?」

 

 

と訝しげに、こちらを見遣るおばちゃん。

こちらも、あと少し距離を縮めようと試みた。

 

 

「この前、ここを車で通りかかった時

おかあさんが、美味しそうに、とうきび食べてたから

買いに来たの」

 

と言うと、やっとおばちゃんの表情が緩んだ。

 

 

「見られてたか。毎日、必ず1本は食べてんのさ。

あんた見てたのかい。そりゃ、まずいわ」

 

 

そう言って私を見てニヤリと笑った。

いくら会話をしても、おばちゃんの

喋りのトーンは、地面ギリギリの

水平飛行ぐらいに低い。

 

とうきびを少しまとめて買ったので

おばちゃんは、お勘定でオマケをしてくれた。

 

お会計をして、お釣りをもらおうと

手を差し出すと

おばちゃんの指先に絡み付いていた

とうきびのヒゲが、

小銭と一緒に、掌に乗ってきた。

 

普通なら「あらゴメンね」と言いながら

取り払うだろうヒゲの量。

おばちゃんは、わたしの掌のヒゲを気にもとめず

また皮むき作業に戻った。

 

おばちゃんの目の前で、小銭に絡まったヒゲを

ちまちまと取ったら、負けなような気がして

掌の中身全部をお財布にしまい

おばちゃんの店での買物は、終わった。

 

 

それから数時間後、

ドラックストアに立ち寄り

レジで、お財布を開くと

 

小銭と一緒に

少し乾燥した、あのとうきびのヒゲが

ニヤリと顔を出した。

 

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